安全衛生ノート

〜脚立の安全対策(第11回:最終回)〜

平成28年1月

労働安全・衛生コンサルタント 土方 伸一

■ 脚立に起因する労働災害の分析(第11回)

今月は脚立の安全対策の最終回です。

これまでの解析に基づいて、脚立の危険性及び安全な機器の提案を述べます。また、現在市販されている脚立で安全に作業するためには、どこに注意すればよいかも述べていきます。

 脚立の危険性のまとめ

1 労働災害発生状況

@ 脚立からの墜落による死傷災害は12メートル未満の高さが最も多く、死亡災害では3メートル以上が最も多いが、1メートル未満の高さでも発生している。

A 墜落時の状況は、作業中が最も多いが、死傷災害では降りるとき、死亡災害ではハシゴとしての使用がそれに次いでいる。

B 負傷の部位は、死傷災害では足、脚が最も多いが、死亡災害では頭、顔、首が圧倒的に多い。

2 作業状況別の安定性

1)脚立として使った場合

作業状況

力の方向

力(ニュートン)

基準状態との比較

天板上

前後

65N

36

左右

101N

56

2段目に跨がった状態

前後

106N

59

左右

187N

104

2段目に立った状態

前方から後方

71N

40

左右

106N

59

安定状態(床上等)

前後・左右

181N

100

脚立単体

全幅方向

25N

14

奥行き方向

44N

25

2)ハシゴとして使用した場合

@ 床との角度が小さいほど脚部を支えるため必要な力が大きくなる。

A 作業者が高く上るほど脚部には大きな力が加わる。

B ステップの幅等が均一でないため、踏み外し等が発生しやすい。

 

 安全な脚立とは

1)安全性の問題点

脚立の問題点と対策は、次のようにまとめることができる。

 

 

問題点

対策

1

安定して作業するためのステップがない

ステップを設ける

2

足位置は固定されるが、上体は自由に動かせるため、「身を乗り出す」状態が生じる

手すり等を設ける

3

作業時、昇降時に身体を保持する手すり等がない

同上

4

脚立単体の安定性が低い。

@ 脚部の幅を広げる

A 脚部を固定する

5

ハシゴとして使用する場合の転移防止機能がない

上部又は脚部を固定する

6

ハシゴとして使用する場合、各段のステップ幅等が均一でない

現在の形状の脚立では、対策は困難である。

2)安全な脚立について

安全な脚立は、上記の対策の要件を満たしたものでなければならない。「脚立」という名称で市販されているもので、現時点でこれらを満たす商品は見当たらない。

「踏み台」として販売されているものでは上記の問題点の@〜Bを解決したものが認められる。

また、対策Cに対応した補助装置を市販しているメーカーもある。

ハシゴとして使用する場合の安全対策D、Eを兼用脚立の構造に取り入れることはきわめて困難であると考える。市販品も見当たらない。

 脚立の安全な使い方

@ 作業をよく分析し、最もよい方法が何かを検討する。高所作業の基本は足場の設置等による作業床の確保である。高さ2メートル未満の場合も同様である。

A 作業場所を頻繁に移動する必要がある場合は手すり、作業者が足の置き場を確保できるステップがついた作業台、踏み台等を使用する。必要に応じ、脚部の固定を行う。

B やむを得ず脚立を使用する場合は脚部の固定、補助装置の取り付け等により、脚部の安定を図る。

C 安全帯取り付け設備を設け、安全帯を使用する。

D 必ず、墜落用保護帽を使用する。

E 脚立はハシゴとして使用しない。専用ハシゴを使用することとし、転移防止のためにフック等で上部を固定する。

3 まとめ

これまでの解析で、従来から危険とされてきた作業の危険性を再確認したものもありましたし、安全とされてきた作業が実は危険な作業であることが判ったものもありました。

結論として、脚立による作業はすべての作業が危険であり、安全な作業は無いと言えます。

高さ12メートルで場所を頻繁に移動しなければならない作業は数多くあると思います。事業者には作業の危険性と脚立の危険性を十分理解して対応すること、並びに、メーカーには脚立に替わるより安全な作業用具の開発と普及が強く望まれます。

 

脚立の安全対策は今回で最終回です。ご覧頂きありがとうございました。